B:鳥猿の親分 スオンク
浮島という孤立した環境がそうさせたのか、アバラシア雲海には、本当に奇妙な魔物が多いわ。その代表格が鳥猿「パイッサ」ね。ギョロっとした目を持つ、あの落ち着きのない魔物よ。熟練のモブハンターであれば、手こずる相手じゃないけど、奴らの親分「スクオンク」にだけは注意が必要ね。
妙に勘が鋭いというか、はしっこいというか、薔薇騎兵団の連中も、たびたびコケにされてるらしいわ。
物資を盗み出された事も、一度や二度じゃないというしね。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
「わぁ、綺麗ねぇ」
あたしは感情のこもらない声で白々しく言った。いや、全然嘘な訳ではない。アバラシア雲海、つまり雲の上の浮島から見る朝焼けや夕焼けは恐らくこの世界で最も美しい。出来る事なら死ぬまでに一度は見ておいた方がいい「あたしが考える絶景ベスト5」には間違いなく入る。…のだが、毎日毎日目の前にあるとなんの有難みも感じなくなってしまう。というのもあたし達がアバラシア雲海に来てからそろそろ2か月が経とうとしている。雲の上にあることで殆ど雨の降らないのと、未開の地だけに街らしい街がないことからあたし達は食料の買い出しで下界に下りるとき以外、ずっと野宿を続けている。
今回狙っているのは鳥猿、一般にはパイッサと呼ばれる魔獣のボスだ。
パイッサは鳥猿と言われるだけあり、なかなかにずる賢い。常時、怯えたようにギョロっとした目をキョロキョロ動かし、オドオドと落ち着きなく動き回る。対峙すると第三者からは弱い者いじめや魔物虐待を疑われるんじゃないかと無駄に後ろめたい気持ちにすらなる。
スクオンクはそんなパイッサの中でも別格に勘が鋭く、小狡く、はしっこい。当初からまず発見に時間がかかるだろうという予測はしていたが、これほど長期間野宿することになるとは正直思ってもみなかった。そんなことを考えながらあたしが朝日に向かって溜息をついていると、背後から相方の責める声が聞こえてきた。
「ま~たつまみ食いしたでしょ?食料の買い出しだって大変なんだからだめだよ」
あたしは確かに若干食いしん坊さんだが、つまみ食いに心当たりがなかった
「食べてないよ~?勘違いじゃない?」
「ちゃんと数えてるもん」
そういうと相方は腰に手を当ててちょっとムスっとした顔であたしを見た。
ちょうどその時、遠くからあたし達を呼ぶ声が聞こえた。声のした方を二人で見ると手を振りながら近づいてくる人影が見えた。この雲海で知り合ったグリーナーの青年だった。アバラシア雲海が広いとはいえ大体決まった範囲をウロウロと徘徊していると同じように徘徊している彼に4~5日に一回くらいの頻度で遭遇する。あたし達より頻繁に下界とここを行き来している彼は仲良くなったあたし達のためにその度食料や間食になりそうな物を分けてくれている。彼はあたし達の傍に来ると今回も背中の大きなバッグを下ろし食料を取り出すとあたし達に分けてくれた。
乾燥肉のブロックにパン、あとは飲み物を3人前…?あたしは以前から気になってたことを聞いてみた。
「ね、どうしていつも一人前余分にくれるの?」
彼は驚いた顔であたしを見た。
「え…ちゃんと人数分だよね?」
彼はあたしを指さし、相方を指さし、そしてあたし達の後を指さした。
「?」
あたしと相方は彼の指をなぞってその指す方をみた。
そこにはギョロ目で毛むくじゃらな生き物がオドオドしながら立っていた。
「ぎゃああああっ!!」
あたしと相方は驚いて悲鳴を上げながらザザザッと後ずさった。
「スクオンク!スクオンク!」
「なんだよっ、なんだよっ、ペットじゃなかったの?」
グリーナーの青年も驚いた様子で後ずさってきた。
「いつも一緒にいるからペットを連れ歩いてるんだと思っってた!」
「はあぁあ??いつからよ!」
彼の話によればスクオンクはもう一カ月以上前からあたし達と行動を共にしていたらしい。あたし達は探し求めている対象にコソコソと付きまとわれていたのに気付かなかったというのか。この一カ月の苦労はいったい・・・・。
スクオンクはどこを見ているのか分からないような焦点の合わない目で呆けたように遠くを見ながら手に持っていた大きなチーズを頬張った。
「ああ⁉それなくなった食糧!」
相方が指さして叫んだ。
こいつ‼こいつのせいであたしは相方から食料泥棒の疑いを掛けられたのか。あたしは怒りに燃えた。